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福岡家庭裁判所久留米支部 平成元年(少ハ)1号 決定

少年 G・Y(昭45.9.9生)

主文

少年を平成2年4月3日まで中等少年院に戻して収容する。

理由

(本件申請の理由の要旨)

少年は昭和63年6月3日福岡家庭裁判所久留米支部で中等少年院送致の決定を受け、人吉農芸学院に収容され、平成元年5月16日同院を仮退院し、以来福岡保護観察所の保護観察下にあるものである。

九州地方更生保護委員会は、少年に対し仮退院を許可するに当つて、仮退院期間中に遵守すべき事項として、(1)定職についてまじめに働くこと、(2)シンナーやボンドなどの吸引はしないこと、(3)どんなことがあつても無免許運転をしないこと、(4)不良交友を絶ち、規則正しい生活をすること、(5)進んで保護司を訪ね、指導・助言を受けることなどを定めた。

ところが、少年は、仮退院後自宅で父が経営する建築塗装業の仕事に従事していたが、平成元年7月ころから急激に生活態度が乱れて就業の意欲を失い、同月中は4日間、翌8月中は3日間就業しただけで、同年9月6日福岡保護観察所に引致されるまでの間徒遊の生活を続け、また、この間自宅自室にA(昭和46年10月27日生、窃盗により昭和63年4月20日から保護観察中)など数人の不良男女が相ついで訪れ、同人らと深夜までたむろして飲酒し、シンナーを吸引し、さらに、弟所有のオートバイや父所有の貨物自動車(軽トラツク)を勝手に持ち出して無免許運転していた疑いが極めて濃厚であり、このまま在宅での保護観察を続けた場合には、さらにシンナー吸引、無免許運転などの遵守事項違反(非行)を反覆継続するおそれがある。

少年の上記行為は、前記特別遵守事項(1)ないし(4)及び犯罪者予防更生法34条2項に定める一般遵守事項(1、2、3号)に違反したものであるが、少年は生活態度の乱れから、再三にわたり家族や保護司及び保護観察官から注意・指導を受けたのに、一向にこれを改めようとせず、反省悔悟の情も認められず、家族も在宅での保護に自信を喪失して再収容を希望している状況であり、このまま推移すれば再非行の危険性も高いので、この際少年を少年院に戻し、いま一度矯正教育を実施する必要がある。

(当裁判所の判断)

少年の保護事件記録、少年調査記録、本件申請書の各添付書類、当審判廷における少年及び母の各供述並びに当裁判所調査官の調査結果によれば、本件申請の理由の要旨記載の各事実を認めることができ、少年が前記特別遵守事項及び一般遵守事項に違反したことは明らかである。

そして、少年のシンナー吸引、無免許運転の非行性向は相当に根強いものがあり、少年の自己中心的で欲求耐性不全等の資質上の問題や家庭の保護状況、これまでの保護処分の経過等にかんがみるとき、その更生は容易でないものがあり、少年が表現する反省の情や将来の稼働に対する意欲等についても観念的、表面的との感を否み得ないものがある。

しかしながら、少年にとつて、今回の収鑑時に満19歳の誕生日を迎えたことはかなりの衝撃的事実であつたようであり、成人を迎えるのも遠くないことを今更の如く自覚し、収鑑中の父母の面会を通して、兄と弟の間に挟まれ、今まで兄弟と比較されることによる劣等感等の屈折した感情を抱いたことの誤りにも気付くとともに父母の愛情を理解する心情も生じ、自己の現状を批判的に直視する態度も形成されつつあるように思われる。このことは、仮退院後のシンナー吸引や無免許運転を否定したこれまでの供述を改め、少年のシンナー吸引を否定した当審判廷における証人A、同Bの各証言はいずれも少年をかばつてなされた不実の供述であつたとして、当裁判所調査官の調査及び当審判廷における供述において反省の情とともに卒直に事実を認めるに至つた点にも如実に看取し得るところであり、また、少年がシンナーや飲酒に耽溺する傾向にはあつても、近時他害的傾向は影をひそめて来た変化等にかんがみるときは、少年に対しては6か月程度の集中的な矯正教育によつてその効果を期待することも可能であると考えられる。

よつて、犯罪者予防更生法43条1項、少年審判規則55条により、少年を平成2年4月3日まで中等少年院に戻して収容することとして、主文のとおり決定する。

(裁判官 矢野清美)

〔参考〕戻し収容申請書の申請の理由

申請の理由

本人は、九州地方更生保護委員会の決定により、平成元年5月16日人吉農芸学院を仮退院し、同2年9月8日を期間満了日として、現在、福岡保護観察所の保護観察下にあるところ、同年9月8日付けをもって同保護観察所長から当委員会に対し、本人に関する戻し収容の申出がなされたので、戻し収容申出書及び同添付の関係書類を検討すると、次のような遵守事項違反の事実が認められ、その程度及び態様、保護観察の経過、少年の資質、環境等を総合して判断するに、再度、少年院に収容して矯正教育を施すことを相当と思料する。

1 遵守事項違反の事実

本人は、仮退院後、自宅で父が経営する建築塗装業の仕事に従事していたものであるが

(1) 平成元年7月初めころから急激に生活態度が乱れて就業の意欲を失い、同月中は4日間、翌8月中は3日間就業しただけで、同年9月6日福岡保護観察所に引致されるまでの間徒遊の生活を続けた

(一般遵守事項第1号後段「正業に従事すること。」及び特別遵守事項第3号「定職に就いてまじめに働くこと。」違反)

(2) この間、自宅自室にA(昭和46年10月27日生窃盗により昭和63年4月20日から保護観察中)など数人の不良男女が相次いで訪れ、同人らと深夜までたむろして飲酒し、またシンナーを吸引し、さらに、弟所有のオートバイや父所有の貨物自動車(軽トラック)を勝手に持ち出して無免許運転していた疑いが極めて濃厚であり、このまま在宅での保護観察を続けた場合には、さらに、シンナー吸引、無免許運転などの遵守事項違反(非行)を反復継続する虞れがある

(一般遵守事項第2号「善行を保持すること。」及び同項第3号「犯罪性のある者又は素行不良の者と交際しないこと。」並びに特別遵守事項第2号「シンナーやボンドなどの吸引はしないこと。」、同項第3号「どんなことがあっても無免許運転をしないこと。」及び同項第4号「不良交友を絶ち、規則正しい生活をすること。」違反)

ものである。

1 再収容を相当とする理由

(1) 前掲1の遵守事項違反については、本人及び本人の母に対する各質問調書並びに担当保護司作成の保護観察経過報告書の各記載により明らかである。

前掲2の遵守事項のうち、シンナー吸引及び無免許運転の事実については、本人は保護観察官に対する質問調査で一旦は自白したものの、後に全面的に否認した。しかし本人の母に対する質問調書、Aに対する保護観察官の面接票及び電話聴取書、本人の弟G・Aに対する保護観察官の電話聴取書並びに担当保護司作成の保護観察経過報告書の各記載により、その疑いは極めて濃厚である。

(2) 本人は、生活態度が乱れてから、再三にわたり家族や保護司及び保護観察官から注意・指導を受けたのに、一向にこれを改めようとせず、かつ現在においても、シンナー吸引や無免許運転の事実を否認するなど、全く反省悔悟の情が認められない。

現時点では、家族も在宅での保護に自信を喪失し再収容を希望している状況であり、このまま保護観察を続ける場合には、さらに重大な再非行に陥る危険が高い。よって、少年院に戻し、今一度矯正教育を実施する必要がある。

注、平成元年9月6日 福岡保護観察所に引致

同日    九州地方更生保護委員会において審理開始決定

同日    福岡少年鑑別所に留置

(留置満了日9月15日)

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